表裏一体!?アウターブランディングとインナーブランディングの違い
企業の価値を最大化するための「自社ブランディング」には、大きく分けてアウターブランディングとインナーブランディングの二つがあります。
ここではアウターブランディングとインナーブランディングの違いについて説明しながら、その双方がもたらすシナジー効果と、アウター・インナーの両方がなぜ自社ブランディングに欠かせないのかといった点についてご説明します。
人を惹きつける会社はブランディング上手
ファッションなら、たとえばエルメス、シャネル。自動車なら、たとえばフェラーリ、ポルシェ。世の中にはさまざまなブランドがあります。
腕時計を例にとるならロレックス、Gショック(カシオ)、グランドセイコー、あるいはパテック・フィリップやオーデマ ピゲ。
必ずしも「高級品=ブランド」というわけではなく、それぞれの価格帯において他社を圧倒する知名度と魅力、差別力を持つのがブランドの面白いところです。日経BPコンサルティング社が発表した「ブランド・ジャパン 2019」では、100円ショップのダイソーも上位ランキングしています。
「ブランドとは何か?」という定義は非常に難しいのですが、たとえば「理屈ではない、感覚的に人を惹きつける力」と考えてみてもいいのではないでしょうか。
たとえば、今日のように優秀な人材を採用しにくい状況下であっても、人を惹きつける力の強い会社であれば優秀な人材は向こうから集まってきます。 キャリタス就活2020によれば、2020年卒の就活生が選ぶ人気企業として、1位に伊藤忠商事、2位にトヨタ自動車、3位に三菱商事が名を連ねています。いずれも高いブランド力を有する名門企業です。
世間には中堅社員よりも高い初任給を積んで、それでも人材難にあえいでいる企業があることも考えれば、ブランド力がいかに強いPR効果を発揮するか、よくわかるのではないでしょうか。
アウターブランディングの特徴
では、こうしたブランド力(自社ブランド力)を高めるためのブランディング戦略の一環として、まずアウターブランディングについて考えてみましょう。
アウターブランディングとは「企業内から社外に向けて行うブランディング(活動)」の総称です。
いわゆるイメージCMなどが典型的な例ですが、一般的な商品CMとは異なり、「売るのではなく、一般社会に良いイメージを定着させる」施策であるところに注目しましょう。
たとえばトラックメーカーのいすゞ自動車のCMでは、特定のトラックを売るのではなく、CMソングに自社の名前を織り込んで、シーズンごとに異なる歌手に歌ってもらうことで話題性を狙うという戦略を一貫しています。最近ではハウンドドッグの大友康平さんを起用したことが大きなPR効果につながりました。
このほかにも、IR活動や広報活動などといった「直接商品やサービスを売る広告以外の目的で、自社ブランドそのものの知名度・高感度などを高める活動」すべてをアウターブランディングと考えることができます。
ただし、「自社ブランド力を高める」という目的のもと、こうした一連の活動を「計画的に統一性をもって推進していく施策」がなくてはアウターブランディングとはいえないでしょう。
インナーブランディングの特徴
アウターブランディングが上記のような外向けのブランディング施策であるのに対し、インナーマーケティング(インターナルブランディング)とは社員に向けた内向けのブランディング施策です。
よく誤解されるのは、アウターとインナーの対比を「外:内」という対比の構図で捉えてしまうことです。
確かに「外:内」には違いないのですが、アウターブランディングは「外向けに、拡散していく」というベクトルを持ち、それに対してインナーブランディングは「社員一人ひとりの内面(精神面)にまで深く浸透していく」というベクトルを持ちます。
これを意識せずにインナーブランディング施策を進めようとすると、施策が社員の気持ちを上滑りして、かえって求心力を失ってしまうおそれがあります。
アウターブランディングではアピール、PR手法といった方法論や表現力が問題になりますが、インナーブランディングでは「真に人を惹きつけるフィロソフィ(哲学性)の有無」「感動を生む思考の美しさ」といった精神性が非常に重要になってきます。かといって単なるお題目では説得力を持たず、その精神性をどのようにかたちに表すかという点も重視されるでしょう。
どちらも最終的には収益の向上に行きつく
アウターブランディングとインナーブランディングは車の両輪のようなものです。どちらか一方だけでは十分な効果を発揮できませんし、会社の組織としてのあり方を歪めることになりかねません。
「社員に対してはインナーブランディングで意識の向上を促し、モチベーションを高め、一つの目標に向かって全員が一丸となる。
その旗印となるのがアウターブランディングであり、外向けに発信する情報と内部の意識とがシンクロしてこそ、揺るがぬ企業理念が会社の実体と一体化する。 また外向けに発信されるCMなどの情報は、従業員の言動と一致することで外部に対しての主張の裏付けとなり、説得力を増す。そして外部からの評価が高まることで、社員の団結力や士気がさらに高まる」。
このような「正の循環」を繰り返すことでシナジー効果を生みだすことがブランディングの理想型ではないでしょうか。
ただし、経営者は「アウターブランディングもインナーブランディングもブランディング戦略の一環であり、ブランディングとはマーケティング戦略の一部である」ということも忘れずにいる必要があります。
ブランディングの最終目的は「企業を理想の状態に近づける」ことではありません。
もちろんそうなるに越したことはありませんが、ブランディングは「企業の価値を最大化し、収益の向上に結びつけるための企業活動」の有効な施策だと考えられます。